「企画書とデザイン」ちはやふるカレンダー2021
2020.12.10.CORK STOREのお披露目企画はカレンダー。
私たちが読み込んで、実際に感じた物語の力を、カレンダーというカタチに。それぞれのカレンダーを手に取ってもらえれば、作家・作品それぞれの物語の強さを感じられるはずだ。
このコラムでは、「ちはやふるカレンダー 2021」に込めた魅力を、企画書と実際に完成したカレンダーデザインから綴る。企画書は、まるで『ちはやふる』に対するファンレターのようだと思う。
(「ちはやふるカレンダー 2021」表紙)
『ちはやふる』は、『BE・LOVE』において2008年2号から連載中の、競技かるたを題材とした少女漫画。主人公は、「かるたで世界一」になるクイーンを目指す少女・綾瀬千早であり、物語は千早がクイーンの座を賭けて争う場面から始まる。連載も13年目に入り、来月、10月13日には最新刊45巻が発売する予定だ。
私は、思いっきり『ちはやふる』を楽しむため、すでに午前休を申請している。
『ちはやふる』の魅力は、なんとも多面的だ。かるたという文化であり競技。団体戦であり個人戦、個人戦であり団体戦。夢と実際の対比。女性の人生。年に数回だけ、特に、名人位・クイーン位挑戦者決定戦で、師匠・弟子の関係が、肩を並べるライバルになることにも心が熱い。
カレンダーを作ろうとして、最初に行き当たるステップは、
いくつもある『ちはやふる』の魅力の、どこを取り出して、カレンダーにするか?ということだった。
実際に、カレンダーで再現したい魅力として選んだのは、この2つだ。1つめは、
(実際に提出した企画書 p.7より)
ここで、読者なら強く頷いてくれることと思うが、『ちはやふる』を読んでいると、コマが色めいて、動いたような錯覚を覚える。作者の末次由紀さんは、花や草木、美しい季節のものをよく描写するが、その通りに、植物が描かれて嬉しいと思っていそうな生々しさを感じる。生きている、動いている。作品を読んでいたはずの自分が、作品の中にいる。現実に、桜が吹いている。ーー
この体験を実現したくて、構想した当初デザイン案と、実際に制作したデザインがこれだ。
(実際に提出した企画書 p.8より抜粋)
(実際に制作したカレンダーデザイン 8月)
画面上だと伝わりにくいのが残念だが、実際には、漫画のコマを印刷した本紙の上に、薄紙を重ね、薄紙に真っ赤な紅葉を印刷している。そうすることで、漫画に実際に描かれたもの(本紙)と、そこからこぼれ溢れるような紅葉(薄紙)を表現した。
(カレンダーデザイン 8月 左:本紙 右:薄紙)
一千年前の竜田川を真っ赤な紅葉が紅に染める様子を、まるで千早と同じように、読者も目の当たりにするような、その魔法を、百人一首のような枠線で囲まれたスペースから感じてもらいたい。
もう1つ、大切にしたかったのは、この魅力。
(実際に提出した企画書 p.4より抜粋)
12カ月を通して、『ちはやふる』に触れていられるとしたら、何を受け取りたいか?
そう問いを立ててみたときに、『ちはやふる』を通して、一首ずつ、百人一首と「出会い直す」ことができたらなんて贅沢だろう、と、すぐに行き着いた。昔、学校で習ったものの、今では遠いものになってしまった小倉百人一首と…。
(百人一首の現代語訳 出典:あんの秀子『ちはやと覚える百人一首 「ちはやふる」公式和歌ガイドブック』)
その思いを元に、薄紙には、そのシーンにぴったりの百人一首を添えた。百人一首の歌と現代語訳を読み、漫画のコマを体験し、また、百人一首を読むと、歌の深さに染み入ってもらえるはずだ。
こうして百人一首を出会い直すことで、私たちが誰かと『ちはやふる』の話をするときに、そのシーンに呼応するような百人一首の話をできるようになるかもしれない。
それは、さながら、その時々に合わせた百人一首を、薬のようにみんなに差し出す、かなちゃんのようではないか!
また、各月のイラストには、作中でその月に起きた印象的なシーンをセレクトしている。たとえば、1月は高校3年の名人位・クイーン位決定戦前夜、2月は菫のバレンタインデー、3月は東大里小学校卒業式、千早・新・太一が迎える別れの日。
作中で、こんな風にみんなが勇気を出して歩んでいることに、現実でも勇気づけられないだろうか?
実際、デザインに着手するため、カレンダーの構成を組んでいた6月は高校選手権予選の月だった。長く続く今年の梅雨にうんざりしそうになるたびに、『ちはやふる』や競技かるたの世界では、あの熱狂の高校選手権が始まっていると思うと、まるで、桜沢先生の前にいるように、背筋が伸びた。
このカレンダーと2021年を過ごす読者にとって、『ちはやふる』がいつもそばにあり、各月に登場するみんなから力を受け取ってくれますように。そう願い、このカレンダーを送り出します。